Eurovision 2019 ハンガリー代表 Joci Pápai の『Az Én Apám』 和訳・歌詞解釈と考察

4歳の頃、彼は一本のギターを渡してくれた
彼の心が宿る弦を弾き オレは懐かしき日々を風の中に描く

8年目を迎えるハンガリーの国内予選大会 A Dal
2019年1月19日から2月23日に渡って開催されたこの大会には
30組もの歌手が、テルアビブ行きを目指してエントリーしていました

およそ1か月に渡る番組を勝ち抜き、見事優勝したのは
かつて、ハンガリー代表として Eurovision のステージに立ったことのある
ハンガリーの英雄シンガーソングライター Joci Pápai でした
ハンガリー史上初のロマ人として、ESC2017 のステージに立ったヨツィは
民族音楽とヒップホップを掛け合わせつつ、自伝的な歌詞を書き綴った
ヨツィ自身が手掛けた『Origo』によって、総合8入賞を果たしていました

そんな Joci Pápai が、再びユーロビジョンのステージに立って歌うのは
2年前とは打って変わって、メロディアスな楽曲『Az Én Apám』です
当時の、怒りや悲しみに満ち溢れた、荒々しい楽曲とは全く違い
とても穏やかな表情、優しい口調で歌うエスニックバラードなのですが
この、どこかノスタルジックな切なさと美しさに満ち溢れた曲に込められているのは
実は、『Origo』の中でも語られた、ある人物へと向けた歌でもありました

ある意味で、『Origo』の続編とも言える楽曲であるがゆえに
ぜひ、『Origo』と共に聞いてもらいたい一曲ではありますが
ここでは、『Az Én Apám』の内容を読み解いていこうと思います

もくじ
歌詞和訳『Az Én Apám (オレの父親)』
歌詞の内容について
歌詞解釈と解説
 - Verse1
 - Verse2
 - Verse3
 - Chorus
『Origo』との関連性について
楽曲レビュー

国内予選大会 A Dal 決勝


公式MV


歌詞和訳『Az Én Apám (オレの父親)』
Verse1
Az én apám úgy nevelt, mint a szél
父はオレを風の様に育てた
Halkan fújt, énekelt, úgy mesélt
優しく吹き、歌い、彼は語ってくれた
Ott lakott, hol minden út véget ért
彼はいた、あらゆる道の終わりに
Ezeregy év is kevés egy életért, egy életért
千年の時だって人生には足りない、人生には足りない

Verse2
Hallom őt, az ő szívét a húrokon
オレには聞こえる、彼の心が弦に宿っている
Látom őt, múló idővel az arcomon
オレには見える、オレの顔に彼が横切るのを
Az ő hitét büszkeség vallanom
彼の信念を 誇りを持って告白しよう
Ezeregy dalból ezt az egyet dúdolom, dúdolom
千の歌の中から口ずさむ、口ずさむ

Chorus
Régi napok, gyönyörű napok
過ぎ去った日々、美しき日々
Szeretem az emlékét
彼との思い出は愛おしい
Ő hív, és hozzá szaladok
彼がオレを呼び オレは彼の元へ駆ける
Játszani így volt szép
それが素敵な遊びだった

Régi dalok megidézik
古い歌が彼を呼び出す
Még érzem a nap fényét
オレはまだ日の光を感じる
A szél zúgását is hallom még
オレにはまだ風の音が聞こえる
A szél hangjában is hallom még
オレにはまだ彼の声が風の中に聞こえる

Verse3
Egy dallal űzte messze el a bánatom
彼が歌えば オレを悲しみから遠ざけてくれる
Mit adhatok, csak az, hogy hozzá tartozom
オレがあげられるのはただ、オレが借りたもの
S az én fiamnak büszkeséggel mondhatom
そして オレは息子に誇りを持って言える
Ő az én apám, és itt az én otthonom
彼がオレの父親だ、これがオレの家なんだ

Chorus
Régi napok, gyönyörű napok
過ぎ去った日々、美しき日々
Szeretem az emlékét
彼との思い出は愛おしい
Ő hív, és hozzá szaladok
彼がオレを呼び オレは彼の元へ駆ける
Játszani így volt szép
それが素敵な遊びだった

Régi dalok megidézik
古い歌が彼を呼び出す
Még érzem a nap fényét
オレはまだ日の光を感じる
A szél fütyült altatót, legyen álmom szép
風が子守歌を奏で、オレの思い出は美しく
A szél fütyült altatót, ma is hallom még
風が子守歌を奏で、オレにはあの日々が聞こえてくる

英語歌詞参照元
https://genius.com/Joci-papai-az-en-apam-lyrics

歌詞の内容について
ロマ系ハンガリー人であるヨツィが、2017年にESCで歌った『Origo』は
そのルーツゆえに受けていた差別、偏見に対するやるせなさや憤り
幼い頃にギターと出会って歌手を目指すようになったきっかけと
歌手としてステージに立つまでの間に背負ってきた悲しみ、と言う
まるで、怒りも悲しみも、自分の全てを歌にぶつけるように
3分間と言う短い時間の中に、多くのメッセージを詰め込んでいました

そうした、全力で自分を表現しようとした自伝楽曲『Origo』と比べると
『Az Én Apám』は、そこまで多くの事が書かれているわけではありません
それでも、音楽の雰囲気や、ヨツィの歌唱から感じられるのと同じように
この曲の歌詞は、春風の様な穏やかさと優しさを持ちつつ
同時に、秋風の様な寂しさと切なさによって彩られており
『Origo』よりも、ヨツィのメッセージが伝わりやすい楽曲になっていると思います

改めて、この曲の内容を要約すると
その内容は実に、至ってシンプル、『Az Én Apám』と題している通り
ヨツィが人生で最も尊敬している人物である、父親との思い出を振り返る歌詞です

ヨツィの父親は、70名以上もの演奏家が在籍する
ジプシー・オーケストラのリーダーだったと言います
歌詞の内容は、そんな父親が、自分をどのように育ててくれたのか
また、ヨツィにとって父親とはどんな存在であるのかが語られており
そして、それを自分の息子に対して、誇らしそうに歌う姿が描かれた曲です

ただし、歌詞を読む上で気を付けなければならないのは
決して、親に対して感謝をするだけの軽いものではない、と言うことです
楽団の長であった父親は、ヨツィの音楽人生に多大な影響を与えており
ヨツィにとって父親とは、自分の人生を変えてくれた、最も大きな存在です
それゆえ、ヨツィは父親に対して絶大な信頼を寄せており
極めて深い敬愛を持って、父親にこの歌を捧げているのです
その強さと深さも含めて、ここでは解説をしていきましょう

歌詞解釈と解説
Verse 1
「Az én apám (オレの父親は) úgy nevelt (育てた), mint a szél (風のように)」
と言う歌詞から始まるこの曲は、ふいに吹いた風の中に父親を見て
今は遠きかの日々を思い返しながら、誇らしそうに語るところから始まります

ヨツィにとって「szél (風)」とは、突風や嵐のような激しいものではありません
歌詞の中の、本当に一番最後の部分、締めの一文で
「A szél (風が) fütyült (囁く) altatót (子守歌)」、と書かれてあるように
ララバイの様に、優しく、柔らかいものとして描かれており
「Halkan fújt (優しく吹く), énekelt (歌う), úgy mesélt (語った)」
父親はヨツィを、その優しい風のように育ててくれた、と
風のように優しく吹き、風のように歌い、風のように語る人だったと歌っています

また、ヨツィにとって父親とは、人生の先輩として偉大な存在だったようです
「Ott lakott (彼はいた), hol minden (あらゆる場所に) út véget ért (その道の終わりに)」
と言う歌詞から、音楽家としての道、人生という道、あるいはロマ人として
あらゆる道の先には父親の背中があったようで
道に迷ったり、見失うことのもなく、良き手本、良き導き手であったようです

ヨツィからすれば、あらゆる道において手本となる存在とは、あまりにも偉大で
「Ezeregy év (千年) is kevés (少なすぎる) egy életért (人生には)」
そんな父親の様になろうとしても、千年かけたとしても追いつくことができない
それほどまでに、父親の背中は大きかったのだと言います

Verse 2
「Hallom őt (彼が聞こえる), az ő szívét (彼のハートが) a húrokon (この弦に)」
ギタリストでもあるヨツィは、4歳の頃からギターを弾いてきていたそうです
その、ヨツィが持っているギターの弦には、父親の心が宿っていると歌います
この事から、ヨツィにギターを教えたのが、他でもなく彼の父親であり
ギタリストとしての道の終わりにも、父親がいたことがうかがえます

また、ヨツィは自分の顔を鏡て見て、こう思います
「Látom őt (彼が見える), múló idővel az arcomon (オレの顔の前を通る)」
年々、歳を取っていく自分を鏡で見ると、父親の顔が脳裏によぎる、と
ヨツィは、自分が確かに父親の子であることを誇りに思っていると歌うのです

Verse 3
ヨツィは、様々な悲しみを背負っています
それは、日常的で些細なこともあるでしょうし
ロマ人として、差別を受け、偏見の目で見られることもあるのでしょう
しかし、どんなことがあっても、父親が歌えば悲しみは遠ざけられました

そんなヨツィと言う人間は、父親から借りたものによって構成された人間です
「Mit adhatok (オレがあげられるのは), csak az (ただこれだけ)」
「hogy hozzá tartozom (オレが借りているものだけなんだ)」
彼が音楽の道を進むようになったのも、差別に立ち向かえたことも
父親からの、何らかの助言や導きがあったからこそであり
今のヨツィの性格や、自身の顔の造形に至るまで、全て父からの影響です
ともすれば、ヨツィが自分の息子に与えられるものもまた
ヨツィが自分の父親から借りたものしかありません
それでも、それだからこそ、ヨツィは誇りを持って言えるのです
オレの父親はこの人だ、この家がオレの家なんだ、と

Chorus
サビの歌詞は、今は遠き美しい日々を振り返る内容ですが
父親と過ごした思い出は、決してセピア色に染まってはいないようで
「Régi dalok (古い歌) megidézik (呼び出す)」
かつて、父親が歌って聞かせてくれた歌を歌えば
当時の日の光の温かささえ感じるほど、鮮明に記憶がよみがえる様ですし
当時の空気感を思わせる風の音色が聞こえたならば
「A szél (風の) hangjában is (中に彼の声が) hallom még (いまだに聞こえる)」
その中に父親の声が聞こえてくるようです

『Origo』との関連性について
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ここからは、『Origo』の和訳記事を読んでいること前提で書いていきますが
『Origo』の歌詞の中には、不思議な一文が存在しています

「Engem 4 évesen megszólított az Isten (4歳の頃、神はオレに話しかけ賜うた)」
「Egy igazi fegyvert adott a kezembe (彼はオレに本物の武器を渡し給うた)」
このうち「fegyvert (武器)」の正体は
「音楽」と言う、差別に立ち向かうための「武器」
「ギター」と言う、偏見に立ち向かうための「武器」であると考察しました
ラップパートの歌詞の内容から考えるに
「武器」を持って修練を積み、差別から自分の身を守れるようになったこと
ヨツィには人々を畏れさせる音楽の才能があったこと
また、それゆえに、人から妬まれることもあったということから
この解釈で間違いはないだろう、と考えています

では、ヨツィに音楽の道を示し、ギターと言う武器を渡した「神様」とは誰なのか
隠者
『Origo』の歌詞では、ヨツィは「神様」に対して次のように書いています
「mindig az igazat mondja (彼はいつも真実を教えてくれる)」
「de az utat mutatja (そして彼は進むべき道を示してくれる)」
ヨツィにギターを渡した「神様」は人生の先輩として偉大な存在だったようです
あらゆる道の先には彼の存在があったようで
道に迷ったり、見失うことのもなく、良き手本、良き導き手であったようです

そして、ヨツィは神様との関係について、次のように書いています
「Ez egy olyan szövetség ami marad örökké (これは永久(とわ)に続く関係」
「ő a legfőbb kincsem (オレにとって最も大切な宝だ)」

これらの事から、「神様」とは
ヨツィの音楽の師匠なのではないか、と考察をしていましたが……

……ここまで記事を読んでいただいていれば、もうお分かりですよね?

『Origo』の中で登場する「神様」とは、『Az Én Apám』でも歌われている
ヨツィがこの世で最も敬愛しており、絶大な信頼を持っている
ヨツィの「父親」である、と言うことが、今回の歌詞で分かったのです

4歳の頃、音楽家であるヨツィの父親は、ヨツィにギターを渡しました
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父親に与えられたギターを手に、ヨツィは侍の様に修練を積み
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「Tudtam, csak ő vigyázhat rám (オレは知った、それが唯一オレを守るものだと)」
音楽の力を持ってして、差別に対抗する力を身に着けます

それと同時に、ヨツィは父親の教えを胸に
父親と同じく、音楽家としての道を進み始めます

2017年、ヨツィはESCハンガリー国内予選大会で優勝し
Eurovision 2017 グランドファイナルにて総合8位入賞を果たして、英雄となります


2018年、彼がギターの上の落とした涙は
歌詞の中で書かれている涙とは、違った意味があったことでしょう


そして 2019年、ヨツィは再び A Dal で優勝し、ESCハンガリー代表となりました

今度は、自分の子供たちに父親の姿を見せながら
自分の父親への想いを胸に、テルアビブへと向かいます

楽曲レビュー
Pápai Joci の『Az én apám』をレビューする! ~あの時手にしたギターと共に~
http://sheilabirlings.blog33.fc2.com/blog-entry-6383.html

Eurovision 2019 もくじ記事
http://sheilabirlings.blog33.fc2.com/blog-entry-6210.html

サムネ
https://www.youtube.com/watch?v=2b_vZFUVs_g

参考文献
https://eurovision.tv/participant/joci-papai-2019
http://infenetwork.net
http://www.eurovisionlive.com
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